日本人とカレーとの出会い

カレーにまつわる話は本当にたくさんあります。ブログのネタには困らないのですが、選別に少々悩みます。日本人とカレーの出会いに関しても諸説あるのですが、代表的なものを紹介します。
1863年、日本にカレーが上陸する前にカレーを初めて目撃した日本の少年がいます。日本からフランスへの遣欧使節の一人、16歳の三宅秀は船でたまたま乗り合わせたインド人が「芋のようなドロドロした不気味なもの」を食べていると文献に書き残しています。彼自身が口にしたという記述はありませんが、“カレーとの出会い”には違いありません。ただしこれは、あくまでも文献での確認が出来るというだけのことで、それ以前に三宅少年の他にもカレーを目にした日本人はいるかもしれないのです。もちろん、見るだけではなく食べた可能性も。
その8年後、初めてカレーを食べた日本人は、のちに日本初の理学博士になる山川健次郎だと言われています。彼は16歳の頃、国費留学生としてアメリカへ渡る船の中でひどい船酔いになり、ご飯が入っているという理由で仕方なく食べたのがカレーでした。その時のカレーを「変な匂いの料理だ」と彼は言っています。
日本人にとってカレーとの出会いはあまり印象がよくなかったようですね。
今となってはとても想像しにくいことです。
もっとも、「美味しそうだ!」という出会いもあったかもしれないのですよ。カレーの歴史を紐解くのもかなり難しいものなのです。

インド~イギリス~日本

江戸時代末期、ペリー来航と共に日本の長かった鎖国が解かれ、様々な国の人や文化が日本へ入ってくるようになりました。イギリスもそのうちの一国でしたが、カレーを日本に持ち込んだのはインドではなく、このイギリスだったのです。
イギリスは大航海時代、インドをも植民地にして大量の香辛料を手に入れると同時に、混合スパイス料理としてカレーを知ります。その後、日本の開国に合わせて入国したイギリス人は貿易港に居留地をつくり、インドで手に入れたスパイスを基に作った欧風のカレーを一部の日本人に紹介しました。このように日本には発祥の地インドからイギリスを経て辿り着いたため、カレーを西洋料理というようになります。
1877年頃になると、明治維新と同時に起こった文明開化が食文化にも影響して西洋料理店が次々と誕生し、ハイカラな食べ物の一つとしてカレーもメニューに載るようになりました。はじめは華族や上流階級の人しか食べられない珍しい高級料理でしたが、大正時代になると、庶民向けの西洋料理店も流行りだし、カレーの知名度は徐々に高まっていきます。
しかし、まだまだ一般的な料理ではありませんでした。日露戦争をきっかけに軍事食として取り入れられ、戦後には元兵隊を通じ一般家庭に広がっていきます。当時はカレーを味噌汁に入れたり醤油を混ぜたりと日本風にアレンジして食べたそうです。日本は外国の様々な部分を吸収し、独自の食文化を築き上げながら日本のカレーも進化させました。第二次世界大戦後、カレーは学校給食に取り入れられ、今や日本の代表的な家庭料理として根付いています。

カレー健康法

カレーの隠されたパワーを皆さんはご存知ですか?カレーは美味しいだけでなく、体に良い食べ物なのです。
カレーの本場インドでは、食事で摂取するもの自体が病気の治療や予防してくれるという「医食同源」の考え方が一般的で、これはインドのどの地域でも共通です。カレーにふんだんに使われるスパイスは、調味料としてはもちろんのこと、古代から薬としても用いられてきました。つまり、何種類ものスパイスを使って作られるカレーは薬の宝庫といえます。
では、カレーを食べるとどのような効果が得られるのでしょうか?
まず、カレーの辛さには脳の血流を良くしてくれる効果があるため、脳の活性化や眠気覚ましに効きます。また、新陳代謝を良くして体温も上げてくれるので冷え性を解消してくれると同時に肥満予防効果もあるようです。しかも、カレーに入れられる黄色の成分・ウコンは万能薬です。最近の実験では、アルツハイマー病を防ぐ効果もあると明らかになりました。実際に米国人に比べインド人は発症率が4分の1だとか。しかも、辛いものを食べるとアドレナリンが分泌され、筋力も一時的に上がるという説もあります。
このように、カレーは人間にいくつものパワーを与えてくれます。暑さでエネルギーを消費してしまう夏にはぴったりの食べ物です。それだけではありません。新陳代謝が活発になると汗をかきやすくなりますが、その汗が体内の熱を奪ってくれるのです。暑い国であるインドで辛いカレーができたのも、体の仕組みをうまく活かした人間の知恵があったからなのですね。
日本でもカレー消費のピークは7・8月の真夏です。赤道付近の国には辛い料理が多いことからも、暑さをしのぐために辛さを求めるのは世界共通のようです。人間の本能的な行動なのでしょう。

カレーと軍隊

「腹が減っては戦はできぬ」ということわざ通り、エネルギーを激しく消耗する軍隊の兵隊達と食事は切り離せないものでした。
明治時代の海軍では脚気(かっけ)が流行り、それにかかって死ぬ者もいました。これは食事に原因があると考えられ、英国海軍に習って洋食を取り入れることになります。その一つにカレーが選ばれ、軍隊の食事に採用されました。また、軍隊にはいつ戦乱が起こってもいいように「食事は作り方が簡単で栄養があって一度に何十人分も大量に作れるものであること」という内容の規則があったほどでした。この三拍子そろった条件にまさしくカレーはうってつけだったのです。そして一説では、地方出身の兵隊たちが軍隊から除隊したり休暇で帰ったりした時に、各家庭で兵隊時代に食べたカレーを再現したため全国各地にカレーが普及したと言われています。
現在、実際の海上自衛隊でもカレーは伝統のメニューとして艦艇や部署ごとに独自の秘伝レシピでそれぞれ作られています。隠し味にワイン、小豆やコーヒー、中にはコカコーラ・ブルーベリージャムを入れる等、それぞれの艦艇や部署ごとに特色があるそうです。味はかなり高レベルで一般の西洋料理店よりもおいしいため、海軍自衛隊カレーの味に惚れ込んで入隊する人まで実際いるとかいないとか。
また、日本人におなじみのご飯の上にかけて食べる「カレーライス」の原点が海軍カレーです。ちなみに横須賀海軍カレーは、カレーだけでは不足しがちなカルシウム・葉酸を牛乳とサラダをつけて3点セットで出すのが定番のメニューだとか。
よく耳にする話ですが、今でも日本の海上自衛隊は航海中に曜日がわからなくならないよう、毎週金曜日にはカレーを食べるそうです。カレーを作る日はわからなくならないのですかね・・・。

カレーは一晩ねかせるとなぜおいしい?

作った日に出来たてを食べるのも美味しいですが、次の日の朝になって食べるカレーは不思議とコクや旨みが増していませんか?よく「カレーは寝て待て」という言葉を聞きます。一晩置くと味に変化が起こるのはどうしてなのでしょう。

カレーの中にはグルタミン酸と呼ばれる旨み成分が含まれています。作りたてのカレーと一晩置いたカレーに含まれるグルタミン酸の量を調べたところ、後者はグルタミン酸の量が1.5倍以上も増加していたそうです。これがカレーに深いコクや独特の甘みをもたらしてくれる原因なのです。

また熱を加えると肉や野菜に含まれる糖分、アミノ酸、たんぱく質などからも甘み・旨み成分が溶け出します。これらが時間をかけてゆっくりカレーに浸透し、ちょうど一晩経った頃に全体に行き渡り馴染んでくるということです。特に玉ねぎは旨み成分がぎっしり詰まっていますし、ジャガイモは味をまろやかにしてくれる効果があります。

スパイスも時間を置くほどカレー全体に馴染んでいきますが、再加熱することで風味や香りが徐々に弱くなってしまいます。初めに作った時のようにもっと風味を引き立てたいのなら、再びスパイスをブレンドして加えてみるといいでしょう。